ベトナムにおける日本語教育は、近年急速な発展を遂げている。東南アジアの経済成長とともに、日本企業のベトナム進出が増加し、日本語能力を持つ人材の需要が高まっている。これにより、ベトナムの教育機関で日本語を学ぶ学生の数が増加し、日本語教育の質の向上が求められている。
本稿では、ベトナムの教育システムにおける日本語の位置づけや、地域による日本語教育の違いを探る。また、日本語教育の方法論や成果を分析し、今後の展望を考察する。これらの観点から、ベトナムにおける日本語教育の現状と課題を明らかにし、将来の発展に向けた提言を行う。
ベトナムの教育システムにおける日本語の位置づけ
ベトナムの教育システムは、近年急速な変化を遂げている。1998年に初めて教育法が成立し、2005年と2019年に改正が行われた。2019年の改正法は2020年7月から施行され、教育の発展が国の最優先政策として位置づけられている[1]。
現在、ベトナムの義務教育期間は10年間となっており、就学前の5歳児教育から小学校5年間、そして中学校4年間が含まれる。特に小学校の5年間は「強制教育」として強調されている[1]。
外国語教育に関しては、ベトナム政府は「2008~2020年期国家教育システムにおける外国語教育学習プロジェクト」を承認し、各地方自治体ごとに小学校での外国語教育を実施している[1]。このプロジェクトは後に修正され、2017~2025年期のプロジェクトとして再承認された。その具体的な目標は、「幼稚園で英語に親しみ、2025年までに100%の生徒が小学校3年生以降の12年間にわたり学習できる環境を整える」ことである[1]。
必修科目化の動き
日本語教育の必修科目化に向けた動きは、近年加速している。2003年から一部の小学校で選択科目として英語教育が開始されたが、2008年に「国家外国語プロジェクト」が立ち上げられ、小学3年生から高校3年生までの10年間の外国語教育強化の方向性が示された[2]。
この流れの中で、2016年9月にはハノイ市の4校とホーチミン市の1校の計5校において、小学3年生から第一外国語として日本語教育が試行導入された[2]。さらに、2023年9月には、ハノイ市の3校で第一外国語としての日本語学習が正式科目として承認された[2]。これは、日本語教育が必修科目としての地位を確立しつつあることを示している。
中等教育においても、日本語教育の拡大が見られる。2003年に「中等プロジェクト」が立ち上げられ、当初はハノイ市のチューヴァンアン中学校で課外授業として日本語教育が開始された。このプロジェクトは2005年から試行段階、2007年から普及段階に移行し、第一外国語科目としての中等教育での日本語教育が、ハノイ市、フエ市、ダナン市、ホーチミン市の計4地域の8中学校において開始された[2]。
選択科目としての日本語
日本語は、英語に次ぐ重要な外国語として認識されつつある。2016年にベトナム政府は第二言語として英語以外に日本語を取り入れることを決定し、2021年2月時点で63省市のうち10省市において日本語教育が行われている[3]。
都市部では既に1年生から英語教育を開始しているが、外国語教育は英語を第一としつつも、地方により他言語(フランス語、日本語、ドイツ語、中国語、韓国語、ロシア語)教育を行う学校も存在する[1]。これは、日本語が選択科目として広く受け入れられていることを示している。
注目すべきは、単なる「日本語教育」だけでなく、「日本式教育」も重視されていることである。例えば、日本式インターナショナルスクール(JIS)では、日本語教育に加えて、日本の文部科学省が定める学習指導要領に沿ったカリキュラムを日本語で提供している[3]。
JISでは、日本語能力の向上だけでなく、日本式の道徳教育にも力を入れており、マナーの習得、自立の促進、日本の道徳心の養成などを目的としている[3]。これは、日本語教育が言語習得にとどまらず、文化理解や人格形成にも寄与していることを示している。
このように、ベトナムの教育システムにおいて日本語は、必修科目化の動きと選択科目としての普及が同時に進行している。政府の積極的な取り組みと、日本企業のベトナム進出増加による需要の高まりが、日本語教育の重要性をさらに高めている。
日本語教育の地域差
ベトナムにおける日本語教育は、地域によって大きな差異が見られる。この差異は、ベトナムの歴史的背景や地理的特性に起因している。ベトナムの長細い「S字」の形状や、かつて南北に分かれていた戦争の影響により、日本語教育の発展度合いは北部、中部、南部で異なる様相を呈している[4]。
都市部と地方の格差
日本語教育の普及状況は、都市部と地方の間で顕著な格差が存在する。この格差は、教育施設の数や質、教師の確保、学習機会の提供などの面で明確に表れている。
- 教育施設の集中:
都市部、特にハノイやホーチミンなどの大都市では、日本語教育施設が集中している。これらの地域では、大学や専門学校、日系日本語学校などが多く設立されており、学習者にとって選択肢が豊富である[5]。 - 教師の確保:
都市部では、質の高い日本語教師を確保しやすい環境にある。一方、地方では教師の不足が深刻な問題となっている。これにより、地方の学習者は質の高い日本語教育を受ける機会が限られている[5]。 - JICAの支援活動:
JICAの日本語教育隊は、ベトナムの日本語教育を支援するために様々な活動を行っている。しかし、その主な配属先は中学校・高校、大学、専門学校、日系日本語学校等であり、その多くがハノイやホーチミンの大学に集中している。このことも、都市部と地方の格差を拡大させる一因となっている[5]。 - 教育の質の問題:
日本企業のベトナム進出増加に伴い、日本語学習者数や教育施設数は年々増加している。しかし、この急激な需要の増加は、教員不足や教師の能力不足といった問題を引き起こし、日本語教育の質の低下が社会問題となっている[5]。
北部・中部・南部の違い
ベトナムの日本語教育は、北部、中部、南部で異なる特徴を持っている。これらの地域差は、歴史的背景や地理的要因に加え、教育政策の実施状況や教育環境の違いにも起因している。
- 教育政策の統一と実施の差:
ベトナムの教育政策や外国語教育政策は全土で統一されているものの、その実施状況や効果は地域によって異なる。北部、中部、南部における日本語教育の発展度合いには明確な相違点が存在する[4]。 - 中等教育における日本語導入:
2003年に日越両政府の合意により、中等教育機関において日本語が課外授業として導入された。2005年には正規科目の第1外国語としての試行が始まり、2007年には日本語が中等教育で教えられる5つの正式な外国語の一つとなった[6]。 - 初等教育への拡大:
2016年からは初等教育にも日本語が導入され、小学3年次から高校まで10年間日本語を勉強する学習者は日本語レベルN3相当の能力が身につくというゴールが設定されている[6]。 - 教育の接続問題:
初・中等教育機関で日本語を学んだ学生が大学に進学した場合、カリキュラムの不一致により、最初から日本語を学び直さなければならないケースが多い。この「アーティキュレーション(教育の接続)」の欠如は、学習者のモチベーション低下や学習効率の低下を引き起こしている[6]。 - 地域別の課題:
南部の日本語教育では、教師の人数不足、質の低さ、教育改革の認識の浅さといった課題が顕著である。また、教育理念の不明確さ、言語能力のみを重視するカリキュラム、基準に沿った評価体制の未整備なども問題となっている[4]。
これらの地域差は、ベトナムの日本語教育の発展に大きな影響を与えている。今後、これらの格差を解消し、全国的に質の高い日本語教育を提供するためには、教育政策の効果的な実施、教師の育成と質の向上、カリキュラムの統一化などが重要な課題となるだろう。
日本語教育の方法論
ベトナムにおける日本語教育の方法論は、近年急速に進化している。従来の教育方法に加え、新しいアプローチや技術の導入により、より効果的な学習環境が整備されつつある。
コミュニカティブアプローチの導入
コミュニカティブアプローチは、ベトナムの日本語教育において重要な位置を占めるようになってきた。このアプローチは、実践的なコミュニケーション能力の向上を目指すもので、学習者が実際の場面で日本語を使用する能力を養うことを目的としている。
- 実践的な学習環境の創出:
教室内でより実践的な日本語使用の機会を提供することで、学習者の実際のコミュニケーション能力の向上を図っている。 - 学習者中心の授業設計:
教師が一方的に講義するのではなく、学習者同士のインタラクションを重視した授業設計が行われている。 - 文化理解の促進:
言語学習と並行して、日本文化の理解を深める活動も取り入れられている。これにより、言語と文化の統合的な学習が可能となっている。 - 評価方法の改善:
文法や語彙の知識だけでなく、実際のコミュニケーション能力を評価する方法が導入されている。
ICTの活用
情報通信技術(ICT)の発展に伴い、ベトナムの日本語教育においてもICTの活用が進んでいる。これにより、学習の効率化や学習機会の拡大が実現されている。
- モバイルラーニングの実証実験:
VJCC(越日人材協力センター)と共同で、日本語学習のためのモバイルラーニングの実証実験が行われている[7]。この実験では、従来のVJCCの日本語コースに、予習・復習用のモバイル学習ツールを適用し、その効果を測定している[7]。 - eラーニングの導入:
広い国土や交通手段、各国の政情等の諸事情、また日本語教師不足の実情から、eラーニング等のICT活用が必須となっている[7]。これにより、「いつでもどこでも」「自分のペースで」学習することが可能となり、スマートフォンやPCを使った学習記録の保存も可能となっている[7]。 - フォーマルラーニングとインフォーマルラーニングの融合:
体系的、網羅的、計画的な学習(フォーマルラーニング)と、個別的、協調的、ソーシャル的な学習を組み合わせている[7]。授業やeラーニングにて体系化した教育、計画的な教育を実施し、モバイルラーニングで弱点中心、興味中心、仲間と共に学ぶことを実現している[7]。 - 音声技術の活用:
「音声合成」技術を活用した「聞く学習」や、「音声認識」技術を活用した「話す学習」が導入されている[7]。これにより、学習者は自然な日本語の発音や会話を学ぶことができる。 - オンライン教材の開発:
日本語学習用のオンライン教材が開発され、学習者がいつでもアクセスできる環境が整備されている。これにより、教室外での自主学習が促進されている。 - バーチャルクラスルームの導入:
遠隔地にいる学習者でも質の高い日本語教育を受けられるよう、バーチャルクラスルームの導入が進んでいる。これにより、都市部と地方の教育格差の解消にも貢献している。 - AIを活用した個別学習支援:
人工知能(AI)を活用した学習支援システムの導入も始まっている。これにより、学習者一人一人の進捗状況や弱点を分析し、個別化された学習プランの提供が可能となっている。 - デジタル教科書の導入:
従来の紙の教科書に代わり、インタラクティブな要素を含むデジタル教科書の導入が進んでいる。これにより、学習者の興味を引き出し、学習効果を高めることが期待されている。
これらの方法論の導入により、ベトナムの日本語教育は大きく変化している。コミュニカティブアプローチの導入により、実践的な日本語運用能力の向上が図られ、ICTの活用によって学習の効率化と機会の拡大が実現されている。
しかし、これらの新しい方法論の導入には課題も存在する。教師の研修や、ICT環境の整備、教材の開発など、多くの投資が必要となる。また、従来の教育方法との調和や、学習者の適応など、解決すべき問題も多い。
今後は、これらの課題を克服しつつ、さらに効果的な日本語教育の方法論を模索していく必要がある。特に、ベトナムの文化的背景や学習者のニーズに合わせたアプローチの開発が重要となるだろう。また、日本語能力試験(JLPT)の受験者数が増加していることから[8]、試験対策と実践的なコミュニケーション能力の向上をバランス良く行える教育方法の確立も求められている。
さらに、日越EPA(経済連携協定)に基づく介護・看護分野における日本語教育[8]や、特定技能での在留資格により日本での就労を目指す層の拡大[8]など、特定の目的のための日本語教育(Japanese for Specific Purposes)の需要も高まっている。これらの特殊なニーズに対応できる柔軟な教育方法の開発も、今後の重要な課題となるだろう。
日本語教育の成果
ベトナムにおける日本語教育は、近年急速に発展し、多岐にわたる成果を上げている。この成果は、日越両国の関係強化や文化交流の促進に大きな影響を与えている。
日越経済関係への貢献
日本語教育の発展は、ベトナムと日本の経済関係に多大な貢献をしている。両国の外交関係樹立を背景に、これまでに3回の日本語ブームが起きている[9]。特に2010年以降の第3回日本語ブームは、日本企業の中国からベトナムへの投資シフトや、日本への留学・就職の増加、さらには両国政府の合意による「介護士・看護士派遣プログラム」と密接に関連している[9]。
日本語教育の成果は、以下の点で経済関係の強化に貢献している:
- 日系企業の進出増加:
2018年以降、ベトナムへ進出した日本企業数がASEAN諸国の中で第1位となっている[3]。2020年末時点で、ハノイ、ダナン、ホーチミンの日本商工会議所に約2000社が加入している[3]。 - 投資額の増加:
2018年のデータによると、日本からベトナムへの投資額は83億4,305万ドルで1位となり、2年連続で首位を維持している[3]。 - 人材の育成と供給:
日本語能力を持つ人材の需要が高まっており、日本語を学習する学生が増加している[10]。これにより、日系企業にとって優秀な人材の確保が容易になっている。 - 高度人材の交流:
技能実習生の増加に加え、ホワイトカラーといわれる高度人材枠でもベトナム人の日本への進出が顕著になっている[3]。 - 経済連携協定(VJEPA)の効果:
2009年に発効した経済連携協定により、両国は「戦略的パートナー」として密接な関係を築いている[11]。日本語教育の普及は、この協定の効果を最大化するのに貢献している。 - 工業化戦略への支援:
日本は2020年に向けたベトナム工業化戦略および2030年までのビジョン構築のために積極的に支援している[9]。日本語教育は、この支援をより効果的にするための重要な要素となっている。
文化交流の促進
日本語教育の成果は、経済面だけでなく、文化交流の促進にも大きな役割を果たしている。
- 親日派の増加:
ベトナムにおいては「親日」派が日増しに増加している[9]。東日本大震災の際には、ベトナム国民の間に日本支援の輪が広がるなど、両国の絆が深まっている[9]。 - 日本文化への理解促進:
日本語学習を通じて、ベトナム人学生が日本の文化、習慣、価値観をより深く理解するようになっている。これにより、両国間の相互理解が促進されている。 - 日本式教育の導入:
日本式インターナショナルスクール(JIS)の設立により、日本語教育だけでなく、日本式の道徳教育も行われている[3]。これにより、マナーの習得、自立の促進、日本の道徳心の養成などが図られている[3]。 - 留学生の増加:
JISの高等部を卒業後、100%の学生が日本の大学への進学を希望している[3]。これにより、将来的に日越間の文化交流がさらに活発化することが期待される。 - 日本研究の活性化:
日本語教育の普及に伴い、ベトナムにおける日本研究も活性化している[9]。これにより、日本の歴史、社会、政治などに関する深い理解が促進されている。 - 地域間交流の拡大:
日本との経済的な結びつきが強い、または強化を掲げる地域を中心に、日本語学科の設立や日本語教育の開始・拡充を希望する動きがある[10]。例えば、ハロン市大学、クイニョン大学、ビンズオン大学などで日本語学科が設立されている[10]。 - 国際的課題への共同対応:
日本語教育を通じて培われた相互理解により、両国は国際的・地域的、または両国共通の課題を解決するために協力する体制が整っている[9]。
これらの成果は、ベトナムにおける日本語教育が単なる言語習得にとどまらず、両国の関係を多面的に強化する重要な役割を果たしていることを示している。特に、経済面での協力関係の深化と、文化面での相互理解の促進は、日本語教育がもたらした最も顕著な成果といえる。
今後、日本語教育の更なる発展により、以下のような効果が期待される:
- 高度人材の育成:
日本語能力と日本式の教育を受けた人材が増えることで、ベトナムの産業発展に貢献する高度人材の供給が増加する。 - イノベーションの促進:
日本の技術や経営手法を理解できる人材が増えることで、ベトナム企業のイノベーション能力が向上する可能性がある。 - 観光産業の発展:
日本語を話せる人材が増えることで、日本からの観光客受け入れ体制が整い、観光産業の発展につながる。 - 学術交流の活性化:
日本語能力を持つ研究者が増えることで、日越間の学術交流がさらに活発化し、両国の科学技術発展に寄与する。 - 外交関係の強化:
言語と文化の相互理解が進むことで、両国の外交関係がさらに強化され、地域の平和と安定に貢献する。
このように、ベトナムにおける日本語教育の成果は、経済、文化、教育、外交など多岐にわたる分野で両国の関係を深化させ、相互の発展に大きく貢献している。今後も日本語教育の質的・量的な拡充が進むことで、これらの成果がさらに拡大していくことが期待される。
今後の展望
日本語教育の拡大
ベトナムにおける日本語教育は、今後さらなる拡大が見込まれている。2011年からは、一般の小学校においても3年生の児童を対象に日本語を含む外国語学習を実施する旨を教育訓練省が決定した。これにより、ベトナム全国の保護者が外国語教育にますます熱い視線を向けている[9]。
2013年現在、国際市場向けのグローバル人材養成の一環として、日本語運用能力を持つ人材の養成に向けた新しい動きが見られる。日本語能力試験受験人数も他の東南アジア諸国の中でも群を抜いて最も多くなっている。2012年の国際交流基金調査データーによると、ベトナム受験者数が東南アジア諸国の受験者総数の35%を占めた[9]。
日本語教育の拡大に伴い、以下のような取り組みが進められている:
- 日本語教師育成コースの開始:
学習対象者の拡大および時代の変化に対応できる教師陣養成事業の必要性が高まっている。2005年にハノイ国家大学外国語大学が「日本語教育師範課程」を、2008年にホーチミン師範大学が「日本語教育科目」を開始した。さらに、2009年にはハノイ国家大学外国語大学に初めて日本語専攻の修士課程が設置され、続いて、ハノイ大学も2010年からそのコースをスタートさせた[9]。 - 日本文化科目の重視:
日本語学習や日本研究の基盤は日本文化の認知だという認識が高まっている。「日本文化」と題する文化色の濃いテキストを受け入れて適用し、かつ「日本学」となる日本文化・文明・文学を必修科目にする大学・センターが多くなっている[9]。 - 日本研究センターの設立:
大学の東洋学部内に日本研究センターが設立されている(例:ホーチミン国家大学)。日本文化に関する知識を持つ日本語教師は日本語教育を土台に日本研究を進めていくのが望ましく、日本語教育と日本研究を一体化し、今後さらに活性化していこうとする方向性が明らかである[9]。 - 日本語教育プログラムの多様化:
各大学の独自性や魅力をアピール・強調する一方、派閥を形成して自身の大学の優位性を生み出している。これは社会・経済のニーズに多方面に対応できるような有能な人材を育てるのに寄与しており、健全的な流れであるといえる。具体的には、IT日本語教育導入(ハノイ工科大学・ホーチミン市工科大学・ハノイ大学・FPT大学)、法学日本語教育導入(ハノイ国家大学法科大学院)、会計業務日本語教育導入(ハノイ貿易大学・ホーチミン市貿易大学分校)などが実施されている[9]。 - マルチメディア・コンピューターソフトの開発:
それぞれの大学は、マルチメディア・コンピューターのソフトを積極的に開発し、それを日本語教育に応用している。さらに、日系企業向けソフトスキル(企業文化・マナー)を日本語コースのプログラムに組んでいる教育機関も多い[9]。 - 大学入試科目としての日本語選択:
2009年度の大学入学試験から、日本語が選択科目として導入された。これは、全国にある有名な進学校における日本語(第一外国語)の必修科目化を受けてのことである[9]。 - 両国連携高等教育プログラムの展開・拡大:
ベトナムからの留学生を増やすと同時に、ベトナムの大学において日本人専門家を日本語教育と専門教育に参入させるという特別な質の高いプログラムが実施されている。国内学習期間と日本留学期間(3+1あるいは2+2)に分かれる。例として、ハノイ工科大学と長岡技術大学や立命館大学、ハノイ貿易大学・青森産業大学などで提携教育プログラムが順調に行われている[9]。
質の向上への取り組み
日本語教育の拡大に伴い、その質の向上も重要な課題となっている。以下のような取り組みが進められている:
- 全国規模の組織の設立:
ベトナムでの日本語教育は学習者数も教育機関数も急増しているため、今後教育機関同士の連携や、発展の方向性・可能性などに関する情報を共有し、社会のニーズに応えられる質の高い人材養成を図ることが重要である。そのために、その糸口となる全国規模の組織が必要だと考えられている[6]。 - ベトナムの日本語・日本語教育学会(AJEV)の設立:
2015年に北部の主要日本語教育機関の日本語学部長の集いで、全国の日本語教師が情報共有や研究成果の発表等ができる場を作る必要があるということで意見が一致した。2017年9月30日に、ベトナム言語学会の管轄にある組織としてAJEVの設立発表会が行われた[6]。 - AJEVのミッションと主な事業:
AJEVは「相互理解を深め、平和な世界を築く」というスローガンを掲げ、以下の3つの主な事業を行っている:- 日本語教育の学術研究・実践を促進する
- 日本語教育の情報交流を促進する
- 日本語教育の若手教員・研究者の養成を促進する[6]
- ピア・ラーニングの導入と研究:
ピア・ラーニングは、ベトナムの教育現場の多くにおいて実験授業で実践、導入されているが、実際の学期で導入し、その影響及び効果について検討する研究はまだ少ない。今後、ベトナムの他の日本語教育機関においても、ピア・ラーニングが実施可能であるか、あるいは、有効かを検討する必要がある[12]。 - ピア・ラーニングの普及:
ワークショップや発表会を通して経験のない教師や学習者にベトナム全国でピア・ラーニングを導入した授業の効果を共有する必要がある。現在、ピア・ラーニングは、北部のハノイ大学、ハノイ国家大学外国語大学、フェー大学外国語大学において実際の学期で会話、作文、読解、聴解の授業に導入されている[12]。 - 専門日本語教育への対応:
今後のベトナム国内では、観光日本語、ビジネス日本語など専門日本語への需要が高まっていくと見込まれており、ピア・ラーニング導入が専門日本語教育にいかなる効果や影響を及ぼすかについても検討していく必要がある[12]。 - 世界の日本語教育ネットワークへの参加:
AJEVの設立により、世界の日本語教育ネットワークに加盟することが可能となり、時代が求める最先端の情報を受信でき、日本語教育の質の向上を実施できると考えられる[6]。
これらの取り組みにより、ベトナムの日本語教育は量的な拡大だけでなく、質的な向上も図られることが期待される。全国規模の組織の設立や、ピア・ラーニングの導入、専門日本語教育への対応など、様々な角度から日本語教育の質の向上に取り組んでいる。
今後の課題としては、以下のような点が挙げられる:
- 地域間格差の解消:
ハノイやホーチミンなどの大都市と地方との間に存在する日本語教育の格差を解消し、全国的に質の高い日本語教育を提供することが求められる。 - 教師の質の向上:
日本語教師の育成と質の向上を図るため、継続的な研修や情報交換の機会を提供する必要がある。 - カリキュラムの標準化と柔軟性の両立:
全国的な日本語教育の質を保証するためのカリキュラムの標準化と、各地域や教育機関の特性に応じた柔軟な対応の両立が求められる。 - テクノロジーの活用:
ICTやAIなどの最新テクノロジーを日本語教育に効果的に取り入れ、学習効果の向上と学習機会の拡大を図る必要がある。 - 産学連携の強化:
日系企業と教育機関の連携を強化し、実践的な日本語教育と就職支援を一体化させることが求められる。 - 国際交流の促進:
日本の教育機関との交流をさらに活発化させ、学生や教師の相互交流を通じて、より実践的な日本語教育を実現する。 - 研究の促進:
ベトナムの日本語教育に関する研究をさらに促進し、その成果を教育現場に還元することが重要である。
これらの課題に取り組むことで、ベトナムの日本語教育はさらなる発展を遂げ、グローバル人材の育成に大きく貢献することが期待される。日本語教育の拡大と質の向上は、ベトナムと日本の経済・文化交流をさらに深化させ、両国の関係強化に寄与するだろう。
結論
ベトナムにおける日本語教育は、経済関係の強化と文化交流の促進に大きな影響を与えています。日系企業の進出増加や投資額の上昇、高度人材の交流など、様々な面で両国の結びつきが深まっています。また、親日派の増加や日本文化への理解促進、留学生の増加なども見られ、日本語教育が単なる言語習得を超えた役割を果たしています。
今後の展望としては、日本語教育のさらなる拡大と質の向上が期待されます。全国規模の組織の設立やピア・ラーニングの導入、専門日本語教育への対応など、様々な取り組みが進められています。これらの努力により、ベトナムの日本語教育は量的な拡大だけでなく、質的な向上も図られ、グローバル人材の育成に大きく貢献することが見込まれます。
この記事を書いての筆者の所感
今回の記事のポイントの大きな点は、言語学習に留まらず、文化や思想など教養に至る部分まで日本式を導入している点にある。AIは未来的な展望をベトナム人の日本語力の向上と教育全体の質的向上、そして日越の交流促進などの点を挙げているが、日本政府としてはもう少し具体的に今回のベトナムの取り組みから学ぶことがあると考える。
つけ蔵の提言!
- 人材不足が露呈しているからこそ行われるICT教育の実践と教育費全体のコストカット
- ベトナム高度人材の受け入れと現在取り組んでいる外国人受け入れ事業との調整(難民問題など)
- 日本式思想の拡大と世界からの理解、プレゼンスの向上。
このように、言語学習には単なる文化交流では計りきれない影響力と可能性に満ちていると考える。日本の常識がグローバルスタンダードになることはないであろうが、少なくとも日本民族というのはこういった人たちであると理解してもらえるだけで日本の未来は少し明るくなるのではないだろうか。このベトナムの日本語・日本式教育の現状とこれからに期待したい。
FAQs
Q1: ベトナムでの日本語教育はどのような状況ですか?
A1: ベトナムでは、1961年にハノイ貿易大学で日本語教育が始まりました。その後、1973年にはハノイ外国語大学(現在のハノイ大学)で教育が開始され、多くの国立および私立の大学や短期大学で日本語教育が広がりました。2021年の調査では、88の高等教育機関で日本語が教えられています。
Q2: ベトナムでの日本語教育はいつ始まりましたか?
A2: ベトナムでの日本語教育は2003年に「中等プロジェクト」によって開始され、ハノイ市のチュー・ヴァン・アン中学校で課外授業として導入されました。2005年からはハノイ市、フエ市、ダナン市、ホーチミン市の8つの中学校で第一外国語として日本語が教えられるようになりました。
Q3: ベトナムでの日本語学習者の数はどれくらいですか?
A3: ベトナムでは日本語を学ぶ人が増え続けており、2021年度には約16万9千人が日本語を学んでいると報告されています。これにより、ベトナムは世界で6番目に多い日本語学習者の国となっています。特に工科系や医療系の大学での日本語教育が進んでいます。
Q4: ベトナムで日本語教師として働く場合、どのくらいの給料が期待できますか?
A4: ベトナムで日本語教師として働く場合の給料は、勤務先が外資企業か現地企業か、また民間かによって異なりますが、一般的には月給70,000円から200,000円の間で、平均して約10万円程度です。
参考文献
[1] – https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/02/2021/db6cdef49e854b9a/202101_r2.pdf
[2] – https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2023/vietnam.pdf
[3] – https://xseeds.sun-asterisk.com/education-20220203/
[4] – https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/67096/29352_Abstract.pdf
[5] – https://vietnam-life.asia/2022/11/05/%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%A0%E4%BA%BA%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%A8%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E7%B5%90%E5%A9%9A%E3%80%81%E3%83%99%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%81%AE%E6%95%99%E8%82%B2%E6%A0%BC%E5%B7%AE/
[6] – https://www.nkg.or.jp/musubu/.assets/msb20180101_2270091_01.pdf
[7] – http://www.digitalsheep.co.jp/img/pdf/0530_vjcc_japanese_learning.pdf
[8] – https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2020/vietnam.html
[9] – https://nichibun.repo.nii.ac.jp/record/1107/files/symp_020__251__249_258__251_260.pdf
[10] – https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/area/country/2022/vietnam.html
[11] – https://core.ac.uk/download/pdf/198398264.pdf
[12] – https://www.jstage.jst.go.jp/article/jtje/20/0/20_13/_pdf/-char/ja
コメント