日本社会の高齢化が進む中、高齢者の一人暮らしが大きな社会問題となっています。65歳以上の単身世帯は年々増加し、2020年には約737万世帯に達しました。この現象は、高齢者の孤独や貧困といった深刻な課題をもたらしています。
本記事では、一人暮らしの高齢者が直面する実態を探ります。社会的孤立がもたらす影響や、貧困が引き起こす孤独の問題について詳しく見ていきます。また、高齢者の悩みや介護の課題、成年後見制度の役割にも触れ、この問題への理解を深めることを目指します。
一人暮らし高齢者の実態
統計データから見る現状
日本の高齢化が進む中、一人暮らしの高齢者が増加しています。2019年の国民生活基礎調査によると、65歳以上の者のいる世帯数は全世帯総数の49.4%を占めています [1]。さらに、65歳以上の単独世帯と夫婦世帯が全世帯の6割を占めるようになりました [1]。
高齢者の一人暮らしの割合は、男女で差があります。65歳以上人口のうち、単独世帯の人口は562万6千人で、全体の16.8%を占めています [2]。男性は12.5%、女性は20.1%が一人暮らしで、女性の方が多い傾向にあります [2]。
地域別の特徴
一人暮らしの高齢者の割合は地域によって異なります。東京都では65歳以上人口の23.2%が一人暮らしで、最も高い割合となっています [2]。一方、山形県では9.7%と最も低くなっています [2]。
将来予測
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2050年には全世帯の44.3%が一人暮らしになると予測されています [3]。特に、65歳以上の高齢者の一人暮らしが急増する見通しです。2050年には、男性の26.1%、女性の29.3%が一人暮らしになると予測されています [3]。
さらに、未婚の一人暮らし高齢者の割合も増加すると予想されており、2050年には男性で59.7%、女性で30.2%に達すると推計されています [3]。これらの変化に伴い、高齢者の住まいの確保や孤立防止が今後の重要な課題となっています。
社会的孤立の定義と影響
社会的孤立は、家族やコミュニティとほとんど接触がない状態を指します。具体的には、人との交流が週1回未満の場合、健康リスクが高まる可能性があります [4]。日本では、高齢者の1~2割程度がこの状態に該当すると言われています [4]。
孤立と孤独の違い
孤立と孤独は似ているようで異なる概念です。孤立は客観的に他者とのつながりが少ない「状態」を指すのに対し、孤独は寂しさなどの主観的な「感情」を表します [5]。孤立している人は孤独を感じやすく、孤独な人は孤立しがちという特徴があります [5]。
メンタルヘルスへの影響
社会的孤立は、メンタルヘルスに深刻な影響を及ぼします。孤独を感じる人はうつ病のリスクが2.7倍に増加するという報告があります [6]。また、人間にとって疎外されることは、肉体的苦痛と同じような脳内処理が行われる可能性があります [4]。さらに、社会的孤立は自己効力感や自尊感情の低下を引き起こし、不健康な状態につながる可能性があります [4]。
社会的コストの増大
社会的孤立は個人の問題にとどまらず、社会全体に大きな影響を与えます。英国では、孤独による経済的損失が年間320億ポンド(約4.9兆円)に達すると推定されています [7]。日本においても、社会的孤立により年間2万人もの早期死亡が起こっている可能性があります [4]。さらに、孤立した高齢者の増加は、認知症や生活支援の問題、孤独死などの社会的課題を引き起こしています [6]。
貧困が引き起こす孤立
生活保護受給者の増加
生活保護受給者数は、2023年3月時点で約204万人に達しています [8]。世界金融危機以降急増し、平成27年3月をピークに減少に転じましたが、近年は減少傾向で推移しています [8]。特筆すべきは、高齢者世帯の増加です。年齢階級別の被保護人員の推移を見ると、65歳以上の者の増加が続いており、被保護人員の半数を65歳以上の者が占めています [8]。
年金だけでは足りない現実
高齢者の貧困は深刻な問題となっています。2016年時点で「65歳以上の高齢者がいる世帯」の貧困率は27%ほどで、高齢者世帯の4分の1が貧困状態に陥っています [9]。特に単身世帯では、この数値がさらに上がります。2016年の「65歳以上70歳未満」世帯における公的年金の平均受給額は、単身世帯で年間136万9000円ほどとなっています [9]。
基礎年金のみを受給している人は、月額満額でも65,000円ほどとなり、年間では80万円ほどです [9]。これだけでは生活費を賄うことが困難であり、貯蓄を切り崩すなどの対策が必要となります [10]。
社会参加の障壁
貧困は社会的孤立の最大の障壁となります。高齢者が外出する際にはバスやタクシー、自家用車等を利用することが主ですが、貧困状態にあればこれらの利用も躊躇します [1]。友人との交流においてもスマートフォン等を購入し利用することに金銭的制約があれば、当然、友人や知人との交流にも制限が生じます [1]。
埼玉県福祉部社会福祉課の調査によると、一人暮らし被保護高齢者の場合、経済的要因等も相まって、一般の世帯以上に親族関係や地域関係が希薄化している傾向が問題視されています [11]。この傾向により社会参加が十分になされず、閉じこもりや孤独死に至る可能性が高くなっています [11]。
貧困状態の単身高齢者には様々なリスクがあります。病気やケガで働けなくなるリスク、就労の機会のリスク、居住を維持するためのリスクなどがあります [9]。これらのリスクに対して、厚生労働省は「生活困窮者自立支援制度」を実施していますが、問題の根本的な解決には至っていません。
結論
高齢者の一人暮らしがもたらす孤立と貧困の問題は、日本社会が直面する大きな課題となっています。社会的なつながりの不足は、高齢者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼし、健康リスクを高める可能性があります。また、経済的な困難は、社会参加の機会を制限し、孤立をさらに深刻化させる要因となっています。
この問題に取り組むには、地域社会全体での支援体制の構築が不可欠です。高齢者の社会参加を促進し、経済的支援を充実させることで、孤立と貧困の悪循環を断ち切ることができるでしょう。高齢者が安心して暮らせる社会づくりは、私たち一人ひとりの責任であり、世代を超えた連携が求められています。
FAQs
Q1: 高齢者が孤独や孤立を感じる割合はどれくらいですか?
A1: 日本における高齢者の約30%が孤独や孤立を感じているとされ、その数は約1092万人に上ります。一人暮らしの高齢者は683万世帯にも及び、65歳以上の4人に1人が一人暮らしです。この数は今後も増え続けると予測されています。
Q2: 一人暮らしの高齢女性の貧困率はどの程度ですか?
A2: 65歳以上で一人暮らしをする女性の相対的貧困率は44.1%に達しています。このデータは東京都立大の阿部彩教授が厚生労働省の国民生活基礎調査(2021年分)を基に独自に集計したものです。
Q3: 日本の高齢者の貧困状況について教えてください。
A3: 日本では特に75歳以上の高齢者の中で、単身で生活する人が43.2%おり、その中の6割以上が死別で一人暮らしをしています。女性の場合は約7割が一人暮らしです。また、一人暮らしの高齢者の約8割は年金を主な収入源としており、7割以上が収入を得るための仕事を持っていません。
Q4: 高齢者が直面する主な問題にはどのようなものがありますか?
A4: 高齢者が直面する問題には、医療や福祉の人材不足、社会保障制度の財政不足、経済活動の鈍化、生活の質(QOL)の低下、孤立化、そして経済的な格差の拡大などがあります。これらは超高齢社会が抱える大きな課題です。
参考文献
[1] – https://www.yu-cho-f.jp/wp-content/uploads/2022winter_articles03.pdf
[2] – https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/20150820_27zen16kai4.pdf
[3] – https://www.jstage.jst.go.jp/article/consumercoopstudies/460/0/460_5/_pdf
[4] – https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001092900.pdf
[5] – https://medicalnote.jp/nj_articles/221025-001-OJ
[6] – https://miyoshi-shakyo.or.jp/isolation.html
[7] – https://heisei-ikai.or.jp/column/lonely-heart/
[8] – https://www.mhlw.go.jp/content/12002000/000977977.pdf
[9] – https://gooddo.jp/magazine/poverty/senior_proverty/5034/
[10] – https://gooddo.jp/magazine/poverty/senior_proverty/
[11] – https://www.niph.go.jp/journal/data/57-1/200857010010.pdf
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