遺族年金廃止の可能性とその影響を解説

遺族年金は、多くの家族にとって重要な経済的支えとなっています。配偶者や子供が家族を失った際、生活を支える大切な制度として機能してきました。しかし、近年の社会情勢や財政状況の変化に伴い、この制度の持続可能性に疑問符がつけられています。

この記事では、遺族年金制度の現状と課題、見直しの可能性とその影響について詳しく解説します。夫の死亡後70歳以上の妻や、子供が受給できる条件など、具体的なケースにも触れながら、公的遺族年金の将来像を探ります。制度の変更が家族の生活にどのような影響を与えるか、今後の展望も含めて考えていきます。

遺族年金制度の現状と課題

遺族基礎年金と遺族厚生年金の違い

遺族年金には、国民年金の「遺族基礎年金」と厚生年金の「遺族厚生年金」の2種類がある^[1]。遺族基礎年金は、主たる生計維持者の国民年金被保険者等が死亡した場合、その者によって生計を維持されていた配偶者や子に対して支給される^[2]。一方、遺族厚生年金は、主たる生計維持者の厚生年金被保険者等が死亡した場合、その遺族に対して従前の生活を保障することを目的としている^[2]。

遺族基礎年金は定額であるのに対し、遺族厚生年金は亡くなった人の加入期間や報酬に応じて金額が決まる^[3]。つまり、遺族基礎年金は生活の安定を図ることを目的としているのに対し、遺族厚生年金は従前の生活水準を維持することを目的としている^[4]。

現行制度における男女差

現行制度では、遺族厚生年金の受給要件に男女差がある。男性は妻が亡くなった時に55歳未満だと受給できず、原則60歳からの支給となる^[1]。一方、女性は夫が亡くなれば30歳以上であれば子の有無に関わらず受給できる^[1]。この男女差は、夫が働き妻が専業主婦という旧来の世帯モデルを前提としていたためである^[4]。

しかし、共働き世帯が増える中で、こうした男女差は実態に合わなくなってきた^[4]。欧米各国は1980~90年代に男女差を解消しており、日本でも男女差を解消できる段階にあるとの指摘がある^[1]。

中高齢寡婦加算の問題点

中高齢寡婦加算は、夫の死亡時に40歳以上で子のない妻、または40歳時点で遺族基礎年金の受給権を有していた子がいる妻に対し、65歳未満の期間中、遺族基礎年金額の3/4が加算される制度である^[2]。65歳以降は経過的寡婦加算に切り替わる^[5]。

この加算措置は、遺族基礎年金の支給打ち切りによる年金額の急減を避けるためのものだが^[5]、専業主婦世帯を前提とした制度となっている。共働き世帯が多数を占める現状に合わせた見直しが必要とされている^[4]。

遺族年金制度の見直し案

男女差の解消

遺族厚生年金の受給要件には、現在男女差がある^[6][7][8]。夫が亡くなった場合、妻は30歳以上であれば子の有無に関わらず終身年金を受給できる。しかし、夫が遺族になった場合は、妻の死亡時に55歳以上でなければ受給できず、原則60歳からの支給となる^[7]。この男女差は、夫が働き妻が専業主婦という旧来の世帯モデルを前提としていたためだが^[4][8]、共働き世帯が増える中で実態に合わなくなってきた^[4][7][8]。

厚生労働省は、男女差を解消する方向で検討に入った^[6]。具体的には、配偶者が亡くなった時に60歳未満で子どもがいない人について、性別にかかわらず5年間の有期給付とする方向だ^[6]。ただし、妻の受給期間の5年間への短縮は段階的に行う予定である^[6]。

支給期間の有期化

現役期の子のない夫婦に対しては、死亡直後の激変に際して生活を保障するための給付として、有期給付とする案が検討されている^[9][8]。一方で、中高齢の遺族配偶者については、就業が難しいことから無期給付とする配慮が必要との意見もある^[9][8]。

有期化に関連して、現役期に死別した遺族配偶者の高齢期の所得保障についても別途検討が求められている^[9]。具体的には、亡くなった者の年金記録を死亡時年金分割などの形で配偶者に分割し、老齢年金の水準を高めることが提案されている^[9]。

収入要件の見直し

現行制度では、遺族厚生年金の受給には一定の収入要件がある^[9]。しかし、高所得者でも配偶者が亡くなれば生活の激変が想定されるため、有期化と併せて収入要件を撤廃してよいとの意見がある^[9]。

対象者範囲の再検討

諸外国の制度を参考にすると、養育する子がいる間は支給されるが、若い時代に養育する子がいない場合には給付がないか有期給付となっているケースが多い^[2]。女性の就業が進展する中で、日本でも同様に、若い時代に養育する子がいない家庭については、遺族給付を有期化もしくは廃止することが将来的な選択肢と考えられる^[2]。

ただし、現実には配偶者が亡くなって生計を立てている方々がおり、制度改革の実施には十分な配慮が必要である^[2]。また、第3号被保険者制度の検討状況によっても、遺族年金の位置付けが変わる可能性がある^[2]。

見直しによる影響と今後の展望

現在の受給者への影響

現在の受給者への影響を最小限に抑えるため、十分な経過措置が必要とされている^[9]。遺族年金については、20年程度かければ、現在の受給者に影響を与えることなく、将来の受給者に最適な制度に移行できるため、時間軸の視点をもって改革を実現することが求められている^[9]。

将来の受給者への影響

将来的には、男女ともに生計を維持する役割を果たすという考え方に基づき、制度上の男女差をなくすことが検討されている^[2]。また、若い時代に養育する子がいない家庭については、遺族給付を有期化または廃止することが、共働きが一般化することを前提とした制度の有り様と考えられる^[2]。

有期化する場合、現役期に死別した遺族配偶者の高齢期の所得保障について別途検討が必要とされている^[9]。具体的には、亡くなった者の年金記録を死亡時年金分割などの形で配偶者に分割し、老齢年金の水準を高める方向が提案されている^[9]。

経過措置の必要性

配偶者が亡くなって生計を立てている方々への配慮が必要であり^[2]、実態を踏まえて現実にどう改革を展開していくかを十分に考慮する必要がある^[2]。

今後のスケジュール

遺族厚生年金の見直しについては、再来年の制度改正に向けて議論が行われることになっている^[10]。男女差の解消や、一時的な支援への移行など、様々な意見が出されている^[10]。

結論

遺族年金制度の見直しは、社会の変化に対応するための重要な課題となっています。男女差の解消や支給期間の有期化など、様々な改革案が検討されていますが、これらの変更は現在の受給者や将来の受給者の生活に大きな影響を与える可能性があります。そのため、十分な経過措置を設けつつ、慎重に進めていく必要があるでしょう。

今後の展望としては、共働き世帯の増加や女性の社会進出を踏まえ、より公平で持続可能な制度への移行が期待されます。ただし、制度改革を進める際には、現実の生活実態に配慮しつつ、段階的に実施することが大切です。遺族年金制度の見直しは、社会保障全体の在り方を考える上でも重要な議論となるでしょう。

FAQs

Q1: 遺族年金が廃止されるという噂は本当ですか？
A1: 遺族年金が廃止されるという噂は、SNS上で広がっていますが、これはデマです。政府や関連機関からは遺族年金廃止の公式な発表はありません。

Q2: 65歳になったら遺族年金はどうなりますか？
A2: 65歳になると、自分の老齢基礎年金の受給が始まるため、遺族年金の額はほぼなくなります。この年齢からは中高齢寡婦加算額もなくなり、遺族年金は非課税ですが、老齢年金は課税されます。

Q3: 夫が70歳以上で亡くなった場合、遺族年金を受け取ることはできますか？
A3: はい、夫が70歳以上で亡くなった場合でも、遺族年金を受け取ることは可能です。受給資格は変わらず、一定の要件を満たす必要があります。

Q4: 妻は遺族年金をいつまで受け取ることができますか？
A4: 遺族厚生年金の受給は、配偶者が亡くなった翌月から始まります。受給期間は受給者の年齢や子供の有無によって異なります。子供がいる場合や妻が30歳以上の場合は終身で受給が可能ですが、子供がいない30歳未満の妻は5年間のみ受給できます。

参考文献 

[1] – https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA283Q40Y3A720C2000000/
[2] – https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001138911.pdf
[3] – https://souzoku.asahi.com/article/14331875
[4] – https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh20212206.pdf
[5] – https://www.kurassist.jp/nenkin_atoz/seido/kyufu/kyufu05.html
[6] – https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240725/k10014522251000.html
[7] – https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK154H50V10C23A8000000/
[8] – https://www.jri.co.jp/file/report/other/pdf/15057.pdf
[9] – https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001224068.pdf
[10] – https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230728/k10014145971000.html