奄美大島の豊かな自然が大きな危機に直面していました。マングースという特定外来生物が島に持ち込まれ、希少な動植物を脅かしていたのです。しかし、環境省を中心とした懸命の努力により、ついにマングースの根絶宣言が出されました。この快挙は、島の生態系を守るだけでなく、世界的にも注目される成果となりました。
この記事では、奄美大島でマングースの根絶に成功した理由を詳しく見ていきます。生物多様性への影響、プロジェクトの組織体制、革新的な捕獲技術について解説します。また、探索犬の活用や個体数の変化、そして根絶成功がもたらした社会的・経済的な影響にも触れていきます。奄美大島の自然保護の取り組みから、私たちが学べることは多いのです。
奄美大島の生物多様性とマングースの脅威
奄美大島は、豊かな生物多様性を誇る特別な場所です。この島には、アマミノクロウサギやアマミヤマシギなど、多くの固有種や絶滅危惧種が生息しています 。島の生態系は、約1200万年前に大陸から分離されたことで独自の進化を遂げました 。
しかし、1979年にハブとクマネズミ対策としてマングースが持ち込まれ、島の生態系に大きな打撃を与えました 。マングースは予想外にアマミノクロウサギやアマミイシカワガエルなどの在来種を捕食し、ピーク時には約10,000頭まで増加しました 。
この脅威に対し、環境省を中心としたマングース防除事業が行われました。その結果、マングースの数は減少し、希少種の回復が確認されるようになりました 。アマミトゲネズミやカエル類など、固有種の分布域拡大も見られています 。
奄美大島の生態系を守るためには、マングースだけでなく、近年問題となっているノネコなど、外来生物対策の継続が必要です 。
マングース根絶プロジェクトの組織体制
環境省は、2005年に外来生物法が施行され、マングースが特定外来生物に指定されたことを受けて、マングース対策のためのプロ集団「奄美マングースバスターズ」を結成しました。このチームは、マングース捕獲の専門家で構成され、結成時は12名でしたが、ピーク時には40名以上に増え、現在は約35名となっています。
バスターズは、島のほぼ全域に3万個以上のわなと300台以上の自動撮影カメラを設置・管理しました。また、マングース探索犬を導入し、ハンドラーと呼ばれる訓練士とともに森に入り、マングースの臭いや糞を探索しました。これらの取り組みにより、2018年4月に最後の1頭を捕獲して以降、約6年間にわたってマングースの生息情報は確認されていません。
この防除事業には、約25年間で総額35億7300万円の予算が投入されました。バスターズのメンバーは、豪雨やハブとの遭遇など厳しい環境の中で、奄美大島の自然を守る熱意を持って日々活動を続けました。
根絶宣言後、環境省は新たな「マングース侵入・定着防止計画」を策定し、バスターズは今後、わなの撤去や監視などを行う予定です。
革新的な捕獲技術と根絶への道のり
マングースの根絶に向けた取り組みは、長年の努力と革新的な技術の導入によって実現しました。環境省は2005年に外来生物法が施行され、マングースが特定外来生物に指定されたことを受けて、「奄美マングースバスターズ」というプロ集団を結成しました。
このチームは、島のほぼ全域に3万個以上のわなと300台以上の自動撮影カメラを設置・管理しました。さらに、マングース探索犬を導入し、ハンドラーと呼ばれる訓練士とともに森に入り、マングースの臭いや糞を探索しました。
捕獲技術も進化し、わなの混獲回避のための改良や、探索犬とハンドラーの連携による個体捕獲手法の開発など、あらゆる手法を駆使して防除を進めました。また、対策が困難な地域では殺鼠剤を利用するなど、状況に応じた対策を実施しました。
これらの取り組みの結果、2018年4月に最後の1頭を捕獲して以降、約6年間にわたってマングースの生息情報は確認されていません。記録に残る捕獲頭数は累計3万2千匹余りに達しました。
環境省は、こうしたデータをもとに数理モデルで算出された根絶確率が2023年度末時点で98.9%~99.7%に達したことを確認し、「マングースが奄美大島から根絶された」と宣言しました。
この成功は、組織的かつ長期間にわたる地道な取り組み、科学的な知見に基づく防除計画の立案と進行管理、そして地域住民を含む多くの協力者との連携の結果です。奄美大島ほど広い島で、長期間定着したマングースの根絶は世界的にも類を見ない成果となりました。
根絶成功の社会的・経済的影響
マングースの根絶は、奄美大島の生態系回復だけでなく、観光業や地域の環境意識にも大きな影響を与えました。
奄美群島認定エコツアーガイドの井上祐輔さんは、マングースの減少と固有種の回復により、観光サービスの質が確実に向上したと話しています。1990年代には、4時間のナイトサファリツアーでアマミノクロウサギに遭遇できないこともありましたが、現在では2時間のツアーでほぼ毎回観察できるようになりました 。
この変化は、観光客の満足度向上につながっています。また、「夜間の野生動物観察ルール」の導入も効果を上げています。このルールには、時速10キロメートル以下での走行や、生き物との距離を2メートル以上保つことなどが含まれています。ルールを守ることで、固有種との遭遇率が上がり、ツアー客の満足度も向上しました 。
地域の環境意識も高まっています。マングースの根絶後も、外来植物の問題に取り組む動きが始まっています。特定の外来植物を見かけたら報告し、駆除する取り組みが進められています 。
奄美市の自然写真家常田守さんは、根絶を実現した関係者への感謝を表明し、今後の外来種対策の徹底を訴えています。NPO法人奄美野鳥の会の永井弓子会長も、島民の意識向上のための啓発活動に力を入れたいと語っています 。
一方で、アマミノクロウサギの個体数回復に伴い、ロードキルの増加という新たな課題も浮上しています。大和村では、交通事故に遭ったクロウサギの治療や野生復帰、研究の拠点施設を開く計画があります 。
国際的にも、奄美大島のマングース根絶は注目を集めています。環境省によると、奄美大島ほどの大きさの島で、長期間定着したマングースの根絶が成功した例は世界的にもまれです 。この成果は、奄美大島のマングース防除事業を先進的なチャレンジとして国際的に評価する要因となっています 。
世界自然遺産に登録された島として、今後は人と野生生物の共存に向けた取り組みが重要となります。島に住む人々や訪れる人々一人ひとりが関心を持ち、持続可能な環境保護を目指すことが求められています 。
結論
奄美大島でのマングース根絶は、自然保護と地域振興の面で大きな成果をあげました。25年以上にわたる地道な努力と、最新の技術を活用した取り組みによって、島の生態系が回復しつつあります。アマミノクロウサギなどの希少種が増え、エコツアーの質も向上しました。これは、環境保護と観光業の両立という新しい可能性を示しています。
この成功例は、他の地域での外来種対策にも役立つかもしれません。でも、まだ課題は残っています。ノネコなど他の外来生物への対策や、増えた野生動物の交通事故防止など、新たな問題に取り組む必要があります。島に住む人や訪れる人みんなで、奄美大島の自然を守り、人と野生生物が共に暮らせる島づくりを進めていくことが大切です。
FAQs
Q1: 奄美大島でマングースが見られなくなったのはなぜですか?
A1: かつて1万匹もいたとされるマングースですが、2018年以降は目撃情報がなくなり、根絶が宣言されました。これは世界的にも珍しい外来種の完全根絶例となります。2003年には激減していたアマミノクロウサギの数も、2022年には約2~17倍に回復しました。
Q2: 沖縄でのマングースの根絶は進んでいますか?
A2: 奄美大島での成功を受けて、環境省は島内全域でマングースの根絶を宣言しました。1993年に始まった捕獲事業では、約32,000匹が捕獲されました。奄美大島のような広範囲での根絶は世界初の事例です。
Q3: 奄美大島にマングースが導入された理由は何ですか?
A3: マングースはもともと毒蛇であるハブを駆除する目的で導入されました。奄美大島へは1979年に沖縄から持ち込まれ、最初に山に放たれたのは30頭だったとされています。
Q4: 奄美大島でのマングース捕獲の報奨金はどのくらいですか?
A4: 1993年に始まったジャワマングースの捕獲報奨金制度では、初めは一匹あたり2,200円から始まり、後に5,000円まで段階的に増額されました。これにより市民も捕獲活動に積極的に参加し、捕獲数が増加しました。
コメント